大人であるはずの男と、子供であるはずの坊

少し前にご飯を食べに行ったりする人がいた。この人と付き合うんだろうか?と思いながら会うものの、相手は決定的なことから逃げて、話をそらそうとするのだった。付き合ってんの?って言われたから、付き合ってないよって言ったんだと、男は私とのことを聞かれたらしく、誰かにそう、答えたらしい。

それじゃ、付き合ってみる?と言ってみようかなと思った瞬間、気配を察したかのように男はトークをどんどん繰り出し、私を黙らせる。私はこういう、話ができない男が一番嫌いである。さけられてるのだなあ と思った。この人のこういうところ、私は好きになれないなあ、とも思った。だから、それならそれでいいや、もうほっとけば。と思った。ちょっと、諦めに似た感情だった。

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そのうち男は、昔話したことを忘れていたり、聞いてない話を私に話したつもりになっていたりすることが増えた。食後に甘いもの食べるんだろ?と言ってメニューを渡してくるものの、私は甘いものは食べない人である。極め付けは私が選んだお店にケチをつけ始めた。ひたすら文句ばかりでイライラしている。さぞかしご機嫌が悪かったんだろう、とその時は流してしまった。

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後になって友人に、「あの人とのご飯、どうだったの」と聞かれた。それがさ、一緒に行ったお店の文句を言い始めて、

それがちょっと、「自分がかわいそうになったのよね」

と言った瞬間、なんと私はメソメソジワジワと涙が出てきたのだった。我ながらびっくりした。そんなことで泣くのね、私は。<もうこの人、うんざりだな>その人と一緒にいた私は、傷付いていたんだと思った瞬間この人と会うのはもうやめよう、と思った。それから、2度と二人ではあっていないのだ。話した友人とは、20代の男の子だ。彼と私は互いの恋愛事情をものすごくあけすけに話す関係だ。
「女の人が予約してくれた店に文句を言う人なんて普通にサイテー」
「ていうか、そもそも店予約するのとか、男がすることだと思うけど」
「予約してくれたことにまず、ありがとうなんじゃないの」と言っている。

何を隠そうその子はちゃんと恋人がいたことがなく、いつでも誰かに振られている。彼の片思いの話を聞いて応援するものの、彼は振られてくる。そして話を聞いていると、彼に片思いをしている女の子はまだいっぱいいる。その子はあなたを好きだよと思うけど、その女の子にはケチをつけてどうしても彼はそういう、自分を好きになる女の子を好きにならない。

積極的にアタックしてくるハーフの女の子でグラマラス。ダメな要素が一個もない子が告白してきたが、断っている。理由を聞いてみたら

「知性のない巨乳は嫌い」とかいう。なんだと?いつもそんな調子だ。彼は、長いこと付き合ったことさえないただの20代のくせに。人の恋愛についてはなんてマットーなことを言うんだろう?と思う。そんな若い男子に40歳以上の大人の男の「人として変」なところをズバリと言われた時の<情けなさ>。情けなくてどうしようもなくなってどこかに隠れたくなった。多分、その男への。そして、そんな人となんであってるんだろうかという自分への情けなさ。でも、<その人がお店の文句を言い出したのは、

なんだかお店が・・・で、私が変なお店選んじゃったのよ。>と言ってしまった。間髪を入れずに、

「またその人をフォローしちゃうんだよね~」
「そうやって許しちゃうんだよね~」と笑われた。
「考えてごらんよ、その人ともし付き合ったとしてあなたはずっとその人のご機嫌を伺って生きていかなきゃいけなくなる」
「あなたはそれで幸せかねえ」
極め付けは
「そんなに大事にしてくれない人に会う必要なんかない」と言われてしまった。まるで <ずだん>と音がしたかのような断罪。正論すぎてぐうの音も出なかった。
20代の坊にそんなことを言われるなんて、私も、その男にしても一体何やってんだかって感じだよな、とつくづく思って一瞬で目が覚めた。

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私とその20代の坊とは、不思議な縁でつながっている。そもそもは、友人の会社にきたインターンの子だった。好奇心旺盛な性格ゆえ 先輩(つまり私の友人)の飲み会にまで勝手についてきたらその飲み会に私がいたのだ。人懐っこすぎてすごい。20の坊は、まるで野生の鹿のような大きな目をした長身の男で、美形だった。そんなに美しい外見を持ってなぜ女の子に振られるのかといえば、<同年代の女の子と、全く話が合わないんだもん>という。これほどまでの美形でも、年がこれほど離れると出てくるのは恋愛感情ではなく

もはや母性であることを知り、

自分にも愕然とした。美しい男が眼前にいても、出てくる感情は恋愛感情とは限らないことを知った。感慨深いな。彼は本当に老成していて、同年代から確かに煙たがられている男子だった。同年代を子供に思う。まるで、私がそうだったように。時に親子のような、時に姉と弟のような、時に先輩から怒られた話を聞き、彼のふられた話を聞き、私のむかついたデートの話を報告し合うという謎の関係である。多分、だれも理解しないだろう。でも、これはソウルメイトと言うやつなんだろうということにした。これはこれで良い。言い方古いけど。態度の悪いその「良い大人」であるはずのデート相手とはその後二人で会うことは、
多分これからもきっとない。

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