がんの告知と、うなぎ

先生、モテるでしょう?
はい、よく言われます。モテます、ありがとうございます。

そんな会話をするくらい父の主治医はイケメンで、最初の入院の際に病状を説明してくれた日の帰り道、父の病状報告と共に、その説明を聞いてきた弟から「先生が超イケメン」という報告をもらっていた。

確かめないといけない。

4月の末から5月の末まで入院し、肺炎の際のレントゲンで癌が見つかって、その細胞や転移を探して検査していた。

ようやく、3回目の生検とMRIで、転移のないステージ1だということがわかった。その結果を踏まえた今後の治療の方針の説明を聞きに行き、同時に先生が噂通りの「超イケメン」であることも確認。イケメンの説明が本当にわかりやすく、一度も専門用語を使わずに噛み砕いた説明をしてくれて、彼こそ本当のブラボーだった。

母と病室を出た後、「どうよ。イケメンだろ」なぜか父親がドヤ顔で自慢してくる。

母は「あれだけのイケメンなら、イケメンですよね?」って言われた時に『そんなことないですよ』って言う方が逆に不自然よね」などという。

父親は最初に会った時に、「先生、イケメンだねえ」と本人に言ったのだそうで、この後もイケメン先生の話で持ちきりなくらい、家族はステージ1で転移がないことにホッとしてくだらない話ししかしなかった。あまりにもホッとしたためか突然お腹が空いてきた。

お腹が空いて、これ以上歩けないとぼやいたところ、「それなら」と、父は家族を乗せて帰宅の途中、いつもの帰り道と違う道を車を走らせていた。我が家が好きな菊川の鰻を食べて帰ることに決定。家族に心配をかけてしまった父の、応援してもらったことへの、申し訳なくて、ありがとうという気持ちの表現だった。うなぎを美味しいと言うようになったのねえ、と母がいう。私は小さいころ、ウナギの皮でアレルギーが出て唇を痒がった。他にも、豚肉や他魚やらでひたすらアレルギーが出たものの、「好きだし、まいっか」と食べ続けた。結局、体が慣れて治ってしまった。そういうノリで、うなぎも「めでたい」時に好きだからいいや、で食べ続け、いつの間にかめでたさに負け、アレルギーは消え去り、いつしか、うなぎがウェルカムな体になっていた。今日もこうして、またうなぎを食べられた。

めでたいことの積み重ねで、アレルギーが負けていったように、小さな積み重ねのハッピーが、アレルギーを打ち負かした。うなぎという小さな幸せの積み重ねの味は、今日もひたすらふんわりとして、柔らかかった。

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