瞬きしたら代々木上原にいた件

「母の日」と「花屋」の関係は、「ケンタッキー」と「クリスマス」の関係と同じだ。

一年で一番忙しい。しかも今年のそれは日曜日の夕方の、コロナ明け。ぼーっと当日きてしまった私が悪かった。劇的に混んでいるお店で待たされて結構クタクタ。店内では明らかにバイト初日の子がいて、間違えまくっている。こちらまでドキドキして、頑張れ!と思う。名物店長もお客さんに「すみませんねえ、猫の手も借りたいのでバイト初日の子がいまあ~す」とやり取りをしている。みなさん、「お~大変だねえ、」と、黙って状況を飲み込んでいる。地元の花屋ならではの空気だけど、駅の改札の花屋だとこうは行かないんだろうな、と思った。バイト初日の娘は、皆さんに見守れながら仕事を捌いているが、作り上げた花束を渡す相手がわからず、先ほどから盛大に間違えている。お客さんの方から、「それ、多分わたしのよ」と名乗り出るシステムになっていた。あの子もこんな雰囲気の中メンタル鍛えられるなあと20年くらい前のバイトの緊張感を思い出した。わざわざ自分からこの日を志願したんだろうか。それとも店長が親戚の子を連れてきたのだろうか。そんなことをぼんやり考えながら自分は違うお客さんの花束を間違って受け取らないように気をつけながら順番を待つ。

今週は結構色々大変だった。父が急遽入院し、がん専門医が3人くらい「癌だ」と断定している。一日でも早く放射線治療を始めたいとウズウズしているのに、2回の生検の結果、2回ともがん細胞が検出されないのだ。おかしいなあ、なんで出て来ないんだ医者はイライラを隠せない。3回目また違う部分から生検された父が、その結果を待つために
一旦退院してきたのだ。退院してきた父は、検査結果を待ちながら日常を取り戻そうとしながら、「俺のこの後の人生」について考えていることを私に話してくる。実家に戻るのは夕方だよ、とLINEしたのに13時頃に連絡した瞬間からすぐに車で私を「おむかえの準備」を始めてうずうずしていたらしい。本人の気持ちが前向きでしっかりしていてよかったなあ、と思うけど、親は気づかないうちに、びっくりするほど老人になっているんだなと実感した。そんな中、私にとっての日常は仕事で、それはそれで割と展示会ざんまいな一週間だった。週終わりにはパンチの効いた大一番もあり気持ち的には満身創痍。土曜に起きたらよくわからない眠気と肩こりでどっと疲れが出る、そんな週末を迎えた。先月からこの状態が続いている。5月頭のGW明けの出張で、行きの新幹線でまさかの乗り物酔いをしたことを思い出した。小刻みに揺れる振動で、吐き気を催す。朝ごはんも大して食べていないけど、全部はいて楽になってしまおうとトイレに行って午前中から2回も吐く。自分にゲンナリしてスッキリした。白いTシャツの黄ばみのように、疲れが溜まって体に染みている気がした。

あまり一人で考え事をしたくもなかったので、久しぶりに飲みに行くことにした。久しぶりの会食は楽しいかった。夜に飲み歩くのも楽しい。あんなにうるさい店もタバコの匂いも嫌いだったのに、なんて気晴らしになるんだろうと思った。あんなに人嫌いなくせに、ゲンキンなやつだなあと我ながら思う。楽しい時間はあっという間に過ぎ、しっかり終電に乗れていたはずなのに、気づくと降りるべき駅で降りられておらず、「終点」にいる自分がいた。

瞬きしている間に終点につくのなんでよ。と久しぶりの自分の酔っぱらいにひく。こんなにお酒、弱かったんだっけ?と思った。どれほど飲むと、どうなるのか、さえ思い出せないくらいお酒を飲んでいないことに気づいた。会ってホッとする誰かと一緒に飲むと、二日酔いは軽く済むことも思い出した。

うるさいお店も、タバコも嫌い。

でもホッとする誰かと飲む幸せなお酒は、良い栄養剤なんだってことを知った。

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